#03 調査報告書

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VRアトラクション『エスケープ・フロム・アダガヤビル』に関する調査報告書

 本稿は、VRアトラクション『エスケープ・フロム・アダガヤビル』のプレイテスト時に発生した諸事案、および事後対応について、その調査報告を行うものである。

20██日掲載
株式会社アミューズ・アンド・レジャー
『エスケープ・フロム・アダガヤビル』社内調査チーム

目次

  1. 第1調査概要

    1. 1経緯と目的

      1. (1) 製品概要
      2. (2) 本事案に至る経緯
      3. (3) 本事案の顛末
    2. 2調査の方法

  2. 第2調査結果

    1. 1『EFA』開発チームへのヒアリング

    2. 2『VR避難シミュレータ』について

    3. 3プログラマーBとの訴訟

    4. 4アンケート結果

    5. 5証言

  3. 第3検証

    1. 1確認された事実

      1. (1) 本事案に関する事実
      2. (2) プログラマーBに関する事実
      3. (3) プロデューサーAに関する事実
    2. 2検証結果

  4. 第4総括

    1. 1今後への対応

    2. 2諸課題の解決策

      1. (1) 社員SNSアカウントの管理徹底
      2. (2) 開発チームの身元調査の徹底
      3. (3) 社員間での情報共有の徹底

第1 調査概要

1 経緯と目的

 本稿は株式会社アミューズ・アンド・レジャー(以下、「当社」)が開発する新作VRアトラクション『エスケープ・フロム・アダガヤビル』(以下、「EFA」)のプレイテスト実施時に発生した諸事案(以下、「本事案」)に関して、事案内容の報告および事後対応についての共有を目的とするものである。

(1) 製品概要

 『EFA』は、リアルなセットを用いたプレイルームとVRゲームを合体させた体験型アトラクションである。

 舞台は架空の街「徒ヶ谷(あだがや)町」内に建つ「アダガヤビルディング」。プレイヤーは未曾有の大災害に見舞われたビルからの脱出を目指す。

 プレイヤーは専用のVRヘッドギアおよびモーションセンサーデバイスを手足に装着し、床の振動・回転機能を備えたプレイルームでゲームを遊ぶ。

図-7 『EFA』開発中のゲーム画面

 本作の特徴は、「VRを超えた没入感」である。

 ゲーム内ではプレイヤーが実際にVRヘッドギアを外して現実のプレイルーム内を探索し、そこに仕込まれたギミックやパズルを解くパートが用意されている。そこで発見した手がかりをもとに、再びVRヘッドギアを装着し、謎解きを進めていく。

 このように、プレイヤーは現実とVR空間を行ったり来たりすることで、リアルとバーチャルがないまぜとなった独特の感覚を味わうことができる。プレイ中にVR機器が登場し、ゲーム内でさらにバーチャル空間に入り込むという、多層的なループ構造の演出も、その効果を狙ったものである。

(2) 本事案に至る経緯

 日、当社施設にて社員6名が『EFA』のテストプレイおよびデバッグ作業を実施した。

 プレイ開始後20分ほどで、一部の社員がVRヘッドギア装着中に頭部および目の痛みを訴えた。

 のち、数名の社員がなにかに怯えた様子を見せながら幼児のように泣き出し、「ごめんなさい」「たいへん申し訳ございません」といった内容を叫ぶ行動が見られた。
 また、VRヘッドギアを強引に外そうとする、プレイルームから逃げ出そうとするなど激しい混乱状態に陥る社員も散見された。

 これらの症状は、『EFA』が規定のセクション(注6)にさしかかった時点で多く確認された。

図-8 『EFA』規定のセクション

 本プロジェクトを主導するA(以下、プロデューサーA)は、これらの症状を社員個々人の健康状態に帰する問題であると判断し、プロジェクト続行ならびにプレイテストの実施を進めた。

(3) 本事案の顛末

 日、一般公募で100名を誘致し、当社施設で『EFA』のプレイテストを実施。

 前述の社内プレイテスト時と同様のタイミングで、多数のプレイヤーに症状が発生した。
結果として、60名のプレイヤーの心身への影響が確認された。

 以下が、確認された症状である。

・プレイ中に激しい混乱状態となり、部屋を走り回って壁に身体を強く打ちつけたり、出血がみられるほど強く皮膚をかきむしったりする。

・VRヘッドギアを強引に外そうとし、首や脊髄に(イ)ソンショウを受ける。

・「ごめんなさい」「許してください」などといった大声を出す。

・自分の首を絞めようとする、舌を噛みちぎろうとするなど、自殺未遂の行動。

・プレイが終了したのち、目を覚まさず昏睡状態に陥る。

・口や鼻腔を塞ぐ、衣服で顔を覆うといった行為で自発的に呼吸を止め、窒息する。

 また、プレイテストの様子は現場スタッフによって録音されていた。

 以下は、その音声記録の文字起こしである。

・記録1

「すいません、すいません、ちょっと……(うめき声)目が。ああ、目が」

「どうされましたか?」

「外して……外していいですか。これ……あ、動かせない。手が、あ、頭……痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

(頭を壁に打ち付ける音)

「やめてください!」

「あああ。 ████████。 ██だ! これは██████

「落ち着いて」

「助けてください! 助けて。████████

(悲鳴)

「ごめんなさい、ごめんなさい、そんなつもりじゃなかった……」

「痛い痛い痛い」

████████

████████! ████████

████████

「電源を落として!」

(ノイズ)

「出して、出してよ……」

(悲鳴を上げながら嘔吐をする音)

「駄目だ、終わらない、終わらない…… 出口はどこ?」

・記録2

(押し殺すような悲鳴)

(何かが割れた音)

「デバイスを外す際はスタッフで対応いたします! レバーに手を触れないでください!」

(鈍い音)

「落ち着いてください!」

(ノイズ)

「救急車を……」

「いいえ。こちらで対応いたします」

(うめき声)

「誰か、拭くもの!」

(足音)

 症状のあった60名のうちいずれも死亡には至らなかったが、うち36名が軽〜中程度の後遺症を患っている。

 意識不明や昏睡状態などの症状を発したテストプレイヤー数名は、█月現在も入院中である。

2 調査の方法

 本事案と『EFA』の因果関係、ならびに本事案に関する事実関係の調査のため、全社員にヒアリングを行った。

 とくに『EFA』開発に携わったスタッフ、および施設運営スタッフやVR機材メーカー社員を含む社外関係者には詳細なアンケートを実施。
 ほか、一部社員からの証言、ならびにチャット・メールのアーカイブの提供を、状況整理に用いる。

 一連の調査結果は、次節に取りまとめる。