#03 調査報告書
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『EFA』開発チームメンバーへのヒアリングの結果、本作のプログラムに目立ったバグや不具合の報告は上がっていない。
制作段階では問題なく動作したという証言がほとんどであり、チーム内で欠陥を(ウ)インメツしたような痕跡は見受けられなかった。
下記にヒアリング内容の一部を掲載する。
| 開発スタッフ | 証言 |
|---|---|
| デバイスエンジニア | 「プログラムに問題は見受けられなかった。すべて想定通りに動作し、操作性やレスポンスも好調だった」 |
| グラフィッカー | 「作中の描写にあたってプロデューサーAとプログラマーBの間でトラブルがあったことを確認している。その影響で若干の遅れが生じたが、プロジェクト全体の進行に支障はなかった」 |
| アートディレクター | 「プログラマーBの素行には問題があった」 |
| 謎解き監修 | 「テキストおよび謎解きに関するリテイクや要望はほぼなく、円滑に進んだ。こちらからはとくに問題点などは感じられなかった」 |
ヒアリング内容にあるとおり、本作の開発中、プロデューサーAとプログラマーBの間でトラブルが発生していた。
プログラマーBは、以前Bが別部署で制作に関わっていた『VR避難シミュレータ』のプログラムが流用されていると主張し、プロデューサーAと対立した。
『EFA』の第2セクションは、地震災害をモチーフにしている。海の付近にあるという設定の「アダガヤビルディング」にも津波が押し寄せ、揺れが収まるまでに廊下を通り、ビルの下層階まで脱出するという筋書きである。
プログラマーBは、こういった描写は実際の避難方法とは異なっており、不適切であると指摘した。また、津波の描写を演出に取り入れることについてはチーム内で賛否が別れていたが、プロデューサーAはそれらの意見を退け、当初の方針でプロジェクトを続行した。
以下、プロデューサーAとプログラマーBの間で交わされた、社内チャットツール上のやりとりである。
図-9 プロデューサーAとプログラマーBのやりとり
図-10 プロデューサーAとプログラマーBのやりとり
このやりとりの数週間後、プログラマーBは自主退職した。
しかしながら、本調査の過程で『VR避難シミュレータ』のプログラムの一部が『EFA』に使用されていることは事実として確認された。
『VR避難シミュレータ』は当社の研究開発部門にて制作が進められていた、体感型映像作品である。
室内で災害に遭遇したときの適切な避難方法や怪我をしたときの応急処置の方法などを、VRデバイスを利用し直感的に学ぶことを目的としている。
非常事態の対処、災害を前にしたときの心構えなどを体感的に学習できるとし、学校や企業、公共施設などへの提供が計画されていた。
しかし20██年█月、開発期間・コストの膨張や資金回収のめどが立たないことを理由に、当社上層部判断で本プロジェクトは凍結された。
図-11 『EFA』開発中のゲーム画面
プログラマーBは本作の開発を主導していたが、プロジェクトの凍結とともにエンタメ部門に異動となり、『EFA』の開発チームに加わることとなった。
『VR避難シミュレータ』プロジェクトは凍結されたものの、本作のプログラムや使用素材は社内に保管されており、これらのデータが『EFA』に使用されたと見られる。
しかし、後述するように『VR避難シミュレータ』に関する権利は当然ながら当社に帰属するものである。したがって『EFA』へのデータの転用に関して、プログラマーBの個人的な感情を除けば、何ら問題はなかったと考えられる。
プログラマーBは退社後、自身が主導した『VR避難シミュレータ』のプログラムおよび素材の流用(注7)を理由に当社を訴えた。
Bは、『VR避難シミュレータ』は自身の被災体験を基にしたプロジェクトであり、実用的なコンテンツとして制作されたものである。本来の意図とは異なる商業的なホラーコンテンツに無断で流用することは、自身の名誉を毀損するものである、と主張。█月現在、係争中(注8)である。
のち、プログラマーBはSNS上にて当社およびプロデューサーAを名指しで中傷する投稿を行った。
以下、その投稿群である。
図-12
図-13
図-14
一連の投稿を受け、当社はプログラマーBを誹謗中傷で訴えた。█月現在、こちらについても同様に係争中である。
プログラマーBの素行について、開発チーム内でアンケートを実施した。設問すべてに回答した社員は全32名である。
図-15
図-16
図-17
図-18
これらのアンケート結果から、プログラマーBの業務態度、ならびにその性格や人格に問題があったことは明白である。
すでに係争中であるが、当社はプログラマーBに対して然るべき処置を取る方針だ。
社内カウンセラーCは、たびたびプログラマーBからカウンセリングの依頼を受けていたと証言している。
Bは自分の望まない形でプロジェクトが進行していると語り、プロデューサーAに自身の尊厳を踏みにじられたと嘆いた。相談中に、泣き出したり取り乱したりすることもあったという。
社員Dは、社内プレイテストの実施後に昏睡状態に陥ったが、数日後意識を取り戻した。
Dには先天的な色覚特性があり、濃淡を除き色の区別がほとんどつかない状態であったことがわかっている。
以下、Dの証言である。
事前に読んでいたシナリオに従い、プレイを進めました。
謎解きの内容は事前に知らされていませんでしたが、難度は低く、大多数のユーザーが円滑に進められそうだと感じました。
ほか、映像やVRの表現にも問題はみられませんでした。
しかし、津波のセクションにさしかかった際には、身体に奇妙な感覚がありました。
こちらに迫ってくる汚水や轟音を前にすると、手足に小さな痺れのようなものを感じました。
それからです。
棺桶のような、狭い箱に閉じ込められているような感覚になりました。
これはちょっと変だぞ、と思い、同伴スタッフに中止を要請しようとしましたが、うまく声が出せませんでした。それどころか、呼吸をするのも苦しくなりました。
言語化が難しいですが……例えるなら、VRヘッドギアの上から、もうひとつ別の映像が覆い被さってくるような……そういう感覚がありました。アトラクションが本来想定していた動作とは、あきらかに違う挙動です。
頭に袋を被せられたような息苦しさです。
それをむりやり取ると、袋はもう一枚被せられているとわかる。
なので、また剥がします。それでも、状況は同じ。
何重にも何重にも、頭に袋を被せられている。
手足も縛られているような感じがしました。
全身の自由が奪われて、狭いところに閉じ込められているような。
とにかく、息苦しかった。終わりがないんです。
もう謝るから、許してって。思わず、そう思ったんです。
図-19 『EFA』開発中のゲーム画面
本事案において、現場スタッフとして配属されていた社員Eによる証言である。
ほんの少し、認識を歪めてあげるだけでいい。
せんせいは、そうおっしゃいました。
僕は、その通りにしただけです。
プログラマーBは可哀想なやつでしたね。あいつは優しすぎたんですよ。こんな会社、呪われて当然でしょう。
だって、(A)謝罪だけで全部丸く収まるわけがないじゃないですか。
だから呪いが必要になるんです。
とはいえ、こうして僕がせんせいに選ばれることになったのは、あいつが中途半端だったおかげですけどね。その点は感謝してます。
一般人の被害者の方々は気の毒に思いますし、僕自身も現場スタッフとしては適切に対応しました。最低限の責務は果たしたつもりです。
ただ、本心を言えば──とても愉快でした。
せんせいのおっしゃることが本当なら、私がいまこうして話していることの意味も、あなたには通じてないんでしょうね。
本事案と社員Eに関連性はないと考えられる。
なお社員Eは、本調査で証言した数日後に自主退職している。